詩人:善田 真琴
菅笠に
手甲脚絆
草鞋履き
徒歩にて回る
さざ波街道
彦根城
遠く仰ぎて
独り往く
井伊家の薫陶
香る城下を
長浜城
太閤殿の
膝元で
守られ眠る
寝袋の中
賤ケ岳
古戦場にも
陽が落ちて
風切り歩く
月をお供に
湖に
迫り出す鳥居
波荒く
新羅恋しや
白髭明神
夕暮れの
人も通はぬ
山道に
骨と化したる
屍あはれ
草枕
仮寝に波の
子守唄
近江舞妓の
真砂の浜で
大津まで
足を引き摺り
十三里
草鞋ほつれて
裸足も同然
行き遇へば
知らぬ同士も
ご挨拶
近江の衆の
習ひ尊し
豆潰れ
汚き我の
足裏も
手当て厭はぬ
茶店の老女(おみな)
木漏れ日や
今津の細き
旧道に
鴉の骸
艶青く光る
若夏の
風車街道
橋の上
うち捨てられし
大魚一匹
新品の
草鞋一足
うどん屋の
寡黙な亭主
「使え」と差し出す
控え目で
折り目正しき
近江衆
古き日本の
仕来たりを継ぐ
膳所に降る
雨に芭蕉の
墓濡れて
夢駈け巡る
元禄の頃