詩人:鰐句 蘭丸
物心がついたころは市営住宅の5階建て鉄筋コンクリート造の4階で家族で住んでいた
冷たいコンクリート壁にうっすらのペンキで
玄関のドアは重たい鉄板製
天井は粗い突起のある左官仕上げで
和風ペンダントの照明がぶら下がっていた
季節は覚えてないが
夜
家族が寝静まった頃
ひとり目が覚めた俺はペンダントの常夜灯を見ていた
すると
毎回 いつものように物語が始まる
常夜灯の月から かぐや姫が降りてくる
降りてくる最中にもなにやらかぐや姫の付き人や取り巻きが騒ぎを起こしている
無事 降りてくると俺と他愛のないやりとりをして
突然 かぐや姫の爺様と婆様がけたたましく乗り込んできて
やれ月へ帰すの 帰さないのの騒ぎが始まる
俺は蚊帳の外にされ
いつものように
かぐや姫は常夜灯の月へ帰って行く
帰って行く最中にも かぐや姫の周りはなんだか大騒ぎ
やがて俺は眠りに落ちていく
本当にあった事だったのか
夢だったのか
半世紀を超えた今も思い出す
常夜灯のかぐや姫