詩人:高級スプーン似
人災か震災か
とあるこの世の終わり
わたしを除けば
無人の列島にて
瓦礫の街を抜け
陰る海辺にひとり
遠くを見ていた
人恋しいと嘆いてみても
漂着するのは死体ばかり
それも得体の知れぬ
百本足の巨大な化け物で
はじめは
恐ろしくも感じたが
何せ世界は終わっている
怯えることもない
それでも
震える身体の一部
空腹を満たすため
化け物の身を切り開き
眼球や腸を抉りだし
燃え盛る灰の山を背に
乾燥させて
いただきます
酒ならいくらでもある
百本足を肴に
ほろ酔えば
終末だって楽しく過ごせる
おかしな話だ
望みがすべて潰えた世界も
この目には美しく映り
幸せすら感じる
自然とこぼれる笑み
いつ振りだろうか
暗雲立ち込める空の下
とても晴れやかな気分
最後の一本を食べ終わり
わたしは酒を飲み干して
思う
あとは話し相手
美味しい世界を
共に味わえる友がほしい
と
海に向かって歩き出す
流れ着いた巨大生物
百本足の化け物の
足跡を辿れば
辿り着けるか
ここではないどこかへ
脱け殻の亡骸となり
今はわたしの腹の中
かつては母なる海の中
悠々と泳いでいたのなら
その姿
一度でいいから見てみたい
生きたお前に会いたいと
わたしは母体に入り込んだ
人生のスタート地点から
産道を逆戻りするような
懐かしさに襲われて
凍える
寒い
苦しい
生きた心地がしない
波にさらわれ
深みにはまり
わたしは母に溺れていく
酷い背徳行為の末
待つものは死か
胎児のように身を丸める
どこまでも昏い深海
進んでいるのか
退いているのか
それすらも不明瞭
意識も遠退く
だが不思議と
心は落ち着いている
暗闇の底
切り替わり
ハイになる
いつの日か味わった
幸せな気分が甦える
わたしは足を伸ばして
再び進み始めた
教わることなく
悠々と
恐れることなく
深海を
どこまでも
どこまでも
いつの日か
この美しい世界を
喰らい合える
お前に会えるまで
わたしは行くよ
ここではないどこかへ
か細い足でどこまでも