詩人:獏
秋の終わりに
季節外れの小さな花が
花が
咲いていたの
雪虫があたり一面に
飛び交い
雪が降る日が間近に
迫っているのに
小さな花は
水溜まりに張った氷に
その命を
写していたの
そんなに
頑張らなくても
いいのに って
こんな季節外れに
うっかり芽吹いた花が
もどかしくて
私はその花の
傍を通るたびに
ただ見つめていた
切なくて
儚げだけど
お日様を
命のかぎり
浴びようと
凛と咲き続ける
小さな花に
私は
いつの間にか
勇気をもらったの
土手の細い道
車が行き交って
通る人も
小さな花には
誰も気付かず
車も人も
崩れかけの
道を通る事に
精一杯で
私が見つけた
その花は
何度も何度も
踏み付けられて
それでも
花は花らしく
つぶれた葉や茎を
お日様に向けて
命のかぎり
だだ咲いていたの
秋の終わりの
短い日の中
踏み潰されても
また空を目指す
小さな花を
私は小さな鉢を持って
私の部屋へ連れてきたの
これから厳しい冬が来る
部屋の中も寒いけれど
この部屋で
踏まれる事も
車に怯える事もなく
いままで懸命に
咲き続けていた花と
ひっそり寄り添うように
生きていこうと
思ったの
毎日毎日
花に語り掛けるうちに
小さな花は
もう一度
小さな蕾をつけた
私は嬉しくて
ほんの少し
鉢に肥料をあげたの
小さな花は
新たに丈夫な葉を茂らせて
幾つもの
蕾を伸ばして
冬間近の
寒い朝に
可愛らしい花を
咲かせたのよ