詩人:猫の影
手元の煙草に火をつけた
ため息が形をもった
涙はどうもあたしには合わないわ
そう言ったあの日の女は泣いていた
星のない夜だった
笑ってやり過ごせることばかり
そのはずなのに
大変遺憾ながらうまくはいかない
声は掠れて走り去る喧噪が連れ去って行った
足元の石は素敵だった
拾われることを拒んでいた
そういえばあんただれだっけ
そう言ったその女は嬉しそうだった
形容できない笑みだった
許容できない矛盾をやり過ごす
それはできていたはずなのに
誠に遺憾ながらうまくはいかない
大変遺憾ながらうまくはいかない
気付けば自分も微笑んでいた
その矛盾を許していた
愚かな不合理を書き散らした
それはできない相談のはずだった
誠に遺憾ながらうまくいってしまう
大変遺憾ながらうまくいってしまった
女の頬の涙の跡がやけに美しかった