詩人:さみだれ
そして誰もいなくなった街に
月世界の神は降り立った
切り裂かれた民主主義のテーマ
愛を叫んだレコード
それをひとつひとつ撫でる手は
冷たく氷のようだった
オフィスビルには電話がいくつかあったが
どれも繋がる様子はなかった
街路樹は乾ききって
触れてしまえば簡単に折れるんじゃないかと不安にさせた
ショッピングモールにはかつての賑わいはなく
食料はみな駄目になっていた
民家は窓が割られていて
机は転がりベッドは骨組みだけになっていた
月世界の神は
公園のベンチに座った
そこにいたであろう恋人たち、老人、サラリーマン、子供
温もりは夜風に吹かれたように
跡形もなく消えて冷えきっていた
目の前にはボールがあり
そして遊具がある
無数のビラと足跡
そして血のついた靴下がある
月世界の神は
地球は美しいものだと信じていた
だが美しいものというのは
ひどく汚らわしいものがあって初めて見えるものだと知った
月世界の神は
一瞬真昼のように明るく輝きを放ち
それから姿を消した
そして二度と来ることはなかった