詩人:カスラ
【電脳世界】ココをそう呼ぶ人がいる。
ココでは、【ワタシ】がハンドルネームなる匿名性の乗り物で行き交うとし、ココ自体、それらワタシらが生み出した架空の世界であると言う。それぞれが何故か、それぞれの生み出した宇宙に隠遁する。
ワタシはさながら、堅固な暗箱の中に逃げ込んだ蟹のごとくその潜望鏡のような小さく近視用の単眼にて、世界を観望す。外宇宙はワタシの知り得ぬ神秘の闇に澄み渡っており、ただ恐怖のようでもある。故にワタシは自身をこの堅固な鎧にて守らねばならぬ。
ワタシの堅固なる暗箱はさまざまな外的情報を一切通さず、したがって内なる音も声も外へは漏れることがない。
それでもワタシは言葉を発しなくてはならない。でもそれが何故だか、誰によって願われたか、解るすべがない。いや忘れてしまったのか。
(そもそもワタシは言葉を持っていたのであろうか)
(ワタシの単眼には何も写らないのは、何も無いからなのか。)
…ワタシは安らかだ。時折、波のような響きにて、耳鳴りのごとく一つの言葉が聴こえて来る。箱に刻まれた神話によると、このようなワタシがこの宇宙には無数に満ちていると記載されているから、そのエコーは幾重にも響いているのであろう。それは今日も小守唄のように眠りを誘い、箱はいたっていつもどうり堅固だ。
『ワタシはココにいる。ワタシハココニ…イル。ココイル。ワ…タシ…ハ…イルココニ…イル。タシハ…』
…∽…