詩人:どるとる
閉館間際の古い映画館
独り働く 掃除のおじさん
ちりとりとほうきを持って
散らかった映画館を右から左へ掃除しています
ふと見ると 独り
残ってる 女の子
彼氏にふられたのと
泣きながら話すよ
おじさんはそっと
ハンカチを手渡した
スクリーンに映る
それぞれの物語
そこに暮らす
人々の営みが
ただ延々と続く様を
繰り返し繰り返し
映すような 毎日
まるで出来損ないの映画みたいだ
なんとなく 仕事終わり 煙草をふかしていたら
さっきの女の子がお礼と言って
缶コーヒーを買ってきてくれました
こんな仕事じゃ感謝なんてされないのに
ああ 嬉しかったよ
年甲斐もなく笑った
胸にあったかいもの
生まれた気がした
死に際はわかっても
その後はわからない
エンドロールの向こうの世界
なんとなく観てみたいけど 僕らが観ることを許されてるのは
息をしている間だけの本編だけ
遠ざかる女の子の後ろ姿に そっと
声をかけてみる
「大丈夫さ、君ならいい恋が出来るよ」
スクリーンに映る
それぞれの物語
そこに暮らす
人々の営みが
ただ延々と続く様を
繰り返し繰り返し
映すような 毎日
まるで出来損ないの映画みたいだ
夢もロマンもない血なまぐさい映画。