詩人:麦
西の外れの黴臭い奥の部屋
古ぼけた一つの箪笥(たんす)
二段目の引き出し
古くなった着物の下の箱の中
婆ちゃんの形見の手鏡
楡の木の赤銅色の縁
透き通った銀の鏡
満月の夜
月明かりの下
鏡を月が映るように向ける
月の光が部屋の中を
薄ぼんやりと明るく照らす
向こう側に居る自分は
外の世界に揉みくちゃにされ
ボロ雑巾の様に草臥(くたび)れていた
投げ出したい 遣り切れない
逃げ出したい 行き場がない
そんな時
ここに来て
月明かりの中に浸っている
月の明かりは
向こうに居ると思っていた自分を
こっちに引き戻してくれて
優しく癒してくれる
鏡を覗くと月の姿は
いつも優しかった婆ちゃんの笑顔になる