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詩人:ライカ
丁度
その日その時が旅の始まりだった
こんなくたびれた様子で なにかが始まるなんていいのかしらん
然し これ以上の日というのもあるようで無いのだろう
耳障りなノイズと 気違いじみた機械音が
車窓を駆ける粉雪を一層嘆かせる
白い息がほおっと
鼻先を濡らす
湿気と雪と排気ガスの 冷たい香りがした
ラジオを切った
やはり
今日ほどふさわしい日というのはない
フロントガラスに砕けて涙を流す雪の欠片が 確信を持たせた
雪の欠片は悲鳴もあげす 上品にその身を散らすだろう
わたしの心はいつも品無く悲鳴をあげ あたかも場末の喫茶店のバックグラウンドミュージックのように
止むことなく
聴こえるか聴こえないか
サイフォンのくつくつという音の方が大きいくらいの嘆きを
慢性的にあげている
いつも身を縛る痛みは
これくらいがいいのかもしれない
多く過去に睨まれて生きる人間がそうであるよう
わたしもまた
眠りが浅く
凍えている
外界は深い夜と
氷細工の樹木が
漂う
薄ら明るい世界
ふいに身じろぐと
動きづらさから
外套の端をドアに噛まれていることに気がついた
強引に引き抜き 片手だけでしわを直す
改めて
外套のあちらこちらに 赤黒く陰惨についた染みをみやる
車は闇の雪道を
進む
時を凍結してなどくれない
一変した世界が
溶け出す
世間一般的に
わたしに
明日は無い。