詩人:どるとる
ほんとうのお母さんじゃないから
お母さんと呼べなくて
ほんとうは呼びたくて
だけれどおもちゃに溢れかえった部屋の押し入れにそっとしまわれたアルバムの中の写真に写るずっと前死んでしまったほんとうのお母さんを忘れられなくて
世界でただひとり
お母さんと呼べる人は死んでしまったお母さんだけだと心を閉ざして
お母さん…
そんな言葉って誰にも優しい響きをもつ言葉のはずなのに
僕には悲しい悲しい言葉になってしまった
お母さん…
今 元気ですか?
新しいママはとても優しくしてくれます
あなた以上にもしかしたら
でも優しすぎて 僕にはね
いつか 覚えてるんだ
僕がお父さんに叱られて泣きじゃくってた時
あなたはそっとそのあたたかい胸で抱きしめてくれた事
何も言葉はなかったけどそれだけが嬉しかった
今はもうあなたはいないけどあなたを忘れやしないよ
季節は幾度となくあなたが死んでからもめぐり街も建物も何もかもが変わってゆくけれど
あなたと過ごした記憶は忘れないよ忘れないよ
忘れたくないんだよ
いつまでも鮮やかなまま
優しいだけじゃない
優しい厳しさを教えてくれたのはお母さん
あなただけ
でも僕は知ったよ
僕だけが苦しんでいるだけじゃないってことを
あなたの遺影の前で静かに涙する父の姿を僕は見たから
やっぱりお父さんの中でもあなたは生きていたんだね
ほんとうのお母さんは世界でただひとりあなただけだけど
今 僕は僕の目の前にあるこの現実を見つめるように僕に優しく笑いかけるこの人をお母さんと呼びます
あなたほどには…
そんなのあたりまえなことだね
だけれど僕にはもう
お母さんと呼べない毎日じゃ悲しいから
ごめんね 天国のお母さん
僕はあなたの代わりなんかいないけど
目の前で僕に微笑むこの人を守るよ守るよ
あなたを守れなかった僕だから今度は僕が死ぬまで。