詩人:浮浪霊
八歳くらいだったろうか。
私を溺愛していたおばあちゃんは居なくなり、預け先の無い私を父が家に置き去りにして出張したあの夜(澄はしっかり者だから好い子でお留守番できるよな?)。
私は誤ってクーラーを切らないで電子レンジを付けてしまい、家のブレーカーを落としてしまったのだ。
当時私は配線用遮断機という概念を持っておらず、
徐々に暗くなる夏の宵を発狂するほどの恐怖と戦いながら、
部屋の隅で縮こまり体を揺すり震えて過ごした。
『しっかり者』でなければならなかった私には、誰かの助けを求めることなど考えられず、やがて帳が落ち暗黒が充ち、悪夢が現を汚染した。
壁を這い引き出しに潜り込む不定形な物
発光し群生する醜怪な小人
窓や鍵穴や隙間から覗き込む歪な人面
異様な長さを持つ人の腕に似たもの
テレビやパソコンや鏡に移り込む有り得べからざる物
それらの物の息遣いや視線が、私を一晩かけて壊していったのを憶えている。