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詩人:どるとる
名前のない街に棲む
名前のない人たち
名前がないからみんな誰かを呼ぶときも自分を呼ぶときも「おい」とか「ねえ」とかで名前を言わずに呼ぶのです
名前のない鳥が飛び
名前のない花が咲き
名前のない建物が建ち並ぶ
名前のない一日に名前のない朝が来て
名前のない夜が空を黒く染める
名前のない人たちは名前のない夢を見て
名前のない時間の中で眠る
名前のない日々はただ名無しの運命に突き動かされて名前もないまま進む
名前のない悲しささえも当たり前だと
名前のない人たちは平気な顔で今日も名前のない一日の夜明けに大きなあくびをするのさ
窓から見える一面の雪景色
それにさえも名前はない
名前をつけようとさえしない
名前のない飲み物を飲み
名前もない場所で働いたり勉強したり
名前もない教科を学び名前もない学校に進学したり名前もない仕事に就いたり
ずっと名前もない人生の中で名前もない人たちは名前すらなくただ人間ってだけの存在でこの街で生きる
ただひとつ名前があるのは人々のからだの胸でリズムを刻む心臓だけだ
なぜかそれだけはハートとみんな呼ぶ
それぞれの名前はないのにねそれだけは名前があるらしい
そんな不思議な街で生きる人はみんななぜか幸せそうだ
名前がなくても
名前を呼ばれなくても
きっとそれぞれの中でその人にしかない特別な光でこの人が誰か区別できるから
名前がなくても結局はその人は世界にひとり
名前のない街に棲む人たちは今日も名前のない一日の中で
名前もない幸せに名前もない笑顔を浮かべ時に名前もない涙を流す
幸せってきっとそんなものなんだろう
具体的なその人をあらわす名前がなくてもそんな世界ならばきっと笑えるはずだね
空は空、太陽は太陽
海は海、花は花
一つしかないもの
たくさんあるもの
たとえだぶってしまってもきっと名前がないことでその人にしかない識別箇所があるから。