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[191321] たばこ屋の角をサビ抜きで(余り)

詩人:高級スプーン似

ここ十と余年の記憶
何かの拍子に
消し飛んでしまっても
今の私は変わらない
きっと
支障を来さない程度の
些細な事象でしかない
現実から離れたくなった時
逃げ込む場所が変わるだけ

非常口の先を行けば
辿り着く部屋
空白広がる空間に
思いの丈を打鍵する
喜怒哀楽が爆発したり
ひたすら空虚を羅列したり
あなたとどなたの言の葉の
隙間の彼方に列挙する
枚挙に暇がないわたしの
産み落としたそれら
果てのない創作の場に
顔も知らない人たちが集った

ハハハッ
もう十年以上も経つのか
乾いた笑いしか出ない
いや無表情に
文字を打ち込んでいるだけだ
何が起こって
何が起こらなかったのか
未だに
どんな顔をしていいのか
わからない
これ以上は記さずに墓場まで

結局
アイツは何重人格だったのかとか
哲学者は次いつ現れるんだとか
解決しない問題もそっちのけ
どれだけ感傷的になろうが
現実には干渉してこない不可思議
あなたともどなたとも
決して浅い関係ではなかった筈なのに
けれども深くは交わらずに
深夜
暗い部屋でひとりぼっち
残りの寿命を貪るように作り上げてきた

ここ十と余年の記憶
何かの拍子に
消し飛んでしまっても
今の私は変わらない
あなたとのどなたとの
思い出も一匙程度のもの
たばこ屋の角を
すっと曲がるように
今わたしが聴いている曲の
サビを過ぎれば忘れてしまう
その程度

普通で終わり
何も特別なことなど
始まらなかった日常
気が狂う前に
今も足を運ぶ場所
ふと思い返せば

何かが変わるほどではない
けれど
消し飛ぶまでは片隅に残る
そんな十と余年の記憶




10y

2016/04/08 (Fri)
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