詩人:高級スプーン似
学校帰り
自転車に乗って
病院へ行くのが日課だった
同じ高校への合格が決まった直後
体調を崩して
入院したきみに会うために
賢治も詩を書くことも好きなんだ
だから一緒に書こうよ
なんて
いきなり誘われても困る
教科書でしか読んだことないし
書けないって言ってるのに
「時間よとまれ! やっぱとまるな!」
国語のノートにそれだけ書いて
続きを書いてと手渡されても
屈託なく笑うきみは
病人には見えなかったし
それは
ぼくのノートだし
仕方なく続きを考えた
一行書いてきみに渡し
一行書いてぼくに戻っての繰り返し
春には定番
桜の下で出会う
新しき日々の詩を書いた
教室にきみはいなかったけど
病室でぼくらは
沢山の出会いと別れを書いた
夏には海
それから花火に
バーベキューの詩も
病室のテレビで観た
高校球児たちの熱い闘いを
描いたこともあったっけ
二人で交互に一行ずつ
鉄道のレールのように書き連ねる
病室から
銀河の果てまでも
どこまでだって
行ける気がした
秋には紅葉
落ち葉を燃やして作る
焼き芋の詩も書いた
窓から見える
あの木の葉っぱが
全て散ったら
わたしの命も・・・
笑えない冗談だったけど
つられて
笑ってしまったな
お芋を食べてぷっぷぷ〜
そんなふざけた一行を書き
雨にも風にも負けない笑顔
そのあと
体調が急激に悪化して
本当に命を落とすなんて
思えなかったから
冬には詩を書かなくなった
結局
どこにも行けなかったんだ
あの日の病室
ふたりでいた時間は
記憶の中でだけ停まったまま
先には進まないでいる
「時間よとまれ! やっぱとまるな!」
初めて完成させた二人の詩
どんな続きを書いたのか
思い出せないのはどうして
あれから十年
銀河の果てから折り返し
再び巡り逢えはしないか
時々立ち止まっては考える
「時間よもどれ! もしくはすすめ!」
込み上げる想い
病室での日々を思い出して
もう一度
ノートを開いて書き出した
いま一度
前に進むため
伝記にもならない
短い生涯を終えた詩人に向けて
今度は
ぼくが手渡す番だ
10y