詩人:さみだれ
山の狼は
月に毎日話しかけます
狩りに失敗したことや
仲間と喧嘩したことや
山の狼は
月に毎日耳をたてます
何か答えてくれないか
いつ答えてくれても聞き逃さぬよう
山の狼は
どんな夜にも月と会いました
月は日に日に痩せこけて
自分がいつか死ぬんじゃないかと怖くなりました
それでも下を見れば
木々が風に揺れ
川はきらきらと瞬き
月は楽しくて
死ぬなんて考えていたことを忘れてしまいました
しかしとうとう月は細く痩せこけ
糸ほどになってからは
すうーと消えてしまいました
山の狼は
月を一生懸命探しました
一晩中山から山へと駆けていき
川を飛び越え海まで来ました
山の狼は
それからたくさん泣きました
太陽が昇って沈んでも
わんわん涙を流しました
月は自分が死んだと思いました
けれど星がさらさら囁くのも
太陽がぎらぎら歩いているのもわかりました
月は自分がまだ生きてるんだと思いました
それから目を凝らして
耳をすませて
ようやく糸ほどに光だしました
山の狼は
目を腫らしていました
声もがらがらになって
足はがくがく震えて立てませんでした
山の狼は
月を探しました
ゆらゆらした視界に糸のようなものがありました
それが月だと気づくや否や
山の狼は
月に話しかけました
月はにこりと笑ったような
そんな気がしたのでした