詩人:高級スプーン似
当時の僕は朝方まで喋っていた、顔の見えない誰かとこの世のどこかで。LINEどころか電子メールやポケベルなんてものさえまだ登場していなかった頃だとその場所の説明も特定をするのも難しいけれど、声を出さずに言葉を使ってやり取りするようなもの。それこそ、黒電話すらなかった白黒の世界だったならもう僕の貧困な語彙ではどうにもなりはしない。
高級スプーン>
嗚呼 嗚呼 あの空に
恋とか、しながら
[01/01 00:00]
−−−−−−−−−−−−−−−−
高級スプーン>
そろそろ遊んじゃおうかな
そっと出かけてみようかなーんて
[12/31 23:59]
世紀末から新世紀へ。年末年始にそんなことをひとり呟いていた僕の孤独な遊びについては、ノストラダムスも見て見ぬ振りを貫いた。事細かに予言されても恥ずかしいだけだったろうけど、本当はそんなことを呟いていたのは一人じゃなく何人も居たし、僕は違う名前だったし、でも画面のこちら側に居るのはいつも一人。真夜中、四畳半のガラパゴス諸島で独り、煌々と輝く新世界を愉しげに見つめながら、ひたすら文字を打ち込んでいた(^-^)←この顔文字、今でも使っている人は居ますか?
現実に背中を向けて向き合った非現実な現実世界なのに、時にそれらをオフにして、目を背けた現実で顔の見えなかった人たちと出会ったこともあった普段は指先だけの繋がりの僕ら。それらは何ら不思議なことではないけれど、当時としては出会い系殺人もあったことだし、LINEのような繋がりはどちらかと言えば少数派? といえるかどうかはわからないけれど迫害される魔女的な一面もあったから、割と秘密裡に水面下で会合は進行し、身近な世間様には言えなかったんだ。白兎を追いかけて迷い込んだ虚構のようでいて、何よりもリアルで鮮明だった指先の僕らの世界。読んでいる人にも伝わりにくいこの言の葉が、それなりの誤解を与えるのではと危惧するだけの頭は当時にもあった模様。どんな模様かと。
指先の僕ら其のいち