詩人:さみだれ
砂漠の底
人魚たちが誇らしげに
崇めている蠍
毒の抜けた
優しい蠍
そこは夜明けの世界
夕焼けの郷
セレナーデが終わらず
気球ってやつを
人魚たちは知らない
夢にも見ない
空から出ることは禁じられて
夢にも見られない
そこは失われた世界
ついに歴史を失い
セレナーデが終わらず
まだ
まだ終わらず
私たちは気味が悪いほどたくさんのことを知っていて、それを当たり前だと決めてかかる
太陽があることはもちろん、風や海やコンクリートや
星の位置や食べられるもの
悪いことや良いこと
私たちは気味が悪いほどたくさんのことを知っていて
平然とそれを口にしたり行動に移したり
認識したり
血液の成分や家屋の建て方、友達や世界の広さ
言葉の壁、月があること
私たちは気球ってやつを知っていて
空から出ることもできる
あらゆるものを崇め
あらゆるものが許された
なのに
あの砂漠の底からは
セレナーデが終わらず
ずっと前から
絶え間なく聞こえている
まだ
まだ聞こえている