詩人:夕凪
親や先生に内緒で
校区外の海へと
冒険する計画
片道30分の道のりに
胸が高鳴って
4人だけの秘密で
ペダルをこいだ ‥
国道添いは危ないから
そう言って
見慣れない民家の間を
試行錯誤で
走り抜けた ─‥
次第に近付く潮の香り
あの信号辺りで
左に曲がったら
きっともう着くよ
エリちゃんの予想は
いつも自信に満ちて
外れがない
釣具屋さんの信号まで
やってきたら
目の前に大きな海が
広がった ‥
さっきまで
少し不安げだった
年下のアヤちゃんも
その景色に
目を輝かせて笑った
自転車を止めて
駆け寄ると
遠浅の静かな波が
太陽の光に
キラキラ揺れながら
打ち寄せる ‥
何をするでもなく
波に近付いては
離れてみたり
足首に絡みつく海水を
蹴り上げて
ずぶ濡れになったり ‥
4人で集めた貝殻を
交換し合って
砂浜に並んで座った ‥
私達はまだ子供で
水平線の向こうも
知らなかったけれど
それでも4人で
世界を手に入れた
そんな気がしてた ‥
帰り道優子ちゃんは
落ちてた空き瓶に
砂と貝殻を入れて
自転車のかごに
大事そうに乗せていた
私の記念のそれは
スカートのポッケで
揺れていた ‥
大人になった今は
車で10分の
見慣れた町並みと海
缶コーヒー片手に
少し離れたベンチから
その海を眺めてる ‥
水平線の向こうにある
大陸も
全部知っているけれど
あの頃よりも
なぜが世界は小さくて
私は俯き笑った ‥
太陽は西に傾いて
やがて海は
小さな波音だけ残して
夜に見えなくなる ‥
空き缶を手に
立ち上がり
背を向け歩き出した瞬間
波音のずっと
向こうの方から
4人の笑い声が
聞こえた気がした ─‥
家に帰ったら
あの時の貝殻を
探してみようか ‥
そんな事を考えて
振り向いた海は
あの時と同じ
潮の香りで
満ち溢れていた ─‥。