詩人:千波 一也
買い物袋から
オレンジが転がったのは単なる偶然で
私の爪の端っこに
香りが甘くなついたのも単なる偶然で
果実が転がり出さぬよう
そろりと立ち上がった頭上に
飛行機雲を見つけたことも
そう、
単なる偶然
あの真っ直ぐな白さを残した人々が
どこへ向かったのかはわからない
でも、
きっと
そこには幸せがあるように思えてならない
オレンジの輪郭は瑞々しいまんまる
単なる偶然は
とても手のひらに優しいかたちをしているのだ
やわらかく匂い立つ、街路樹の横
風は優しく背を撫でる
私の家の待つ方角へ
風は優しく背を撫でる