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[85297] 家路

詩人:千波 一也


買い物袋から

オレンジが転がったのは単なる偶然で


私の爪の端っこに

香りが甘くなついたのも単なる偶然で



果実が転がり出さぬよう

そろりと立ち上がった頭上に

飛行機雲を見つけたことも

そう、

単なる偶然



あの真っ直ぐな白さを残した人々が

どこへ向かったのかはわからない

でも、

きっと

そこには幸せがあるように思えてならない




オレンジの輪郭は瑞々しいまんまる

単なる偶然は

とても手のひらに優しいかたちをしているのだ



やわらかく匂い立つ、街路樹の横

風は優しく背を撫でる



私の家の待つ方角へ

風は優しく背を撫でる



2006/09/09 (Sat)
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