詩人:千波 一也
わたしがむやみに数えるものだから
蛍はすべていってしまった
わたしが思い出せるものは
ひとつ ふたつと
美しい光
いつつ むっつと
美しい光
けれどもそこに温もりは生まれない
わたしはきっと
誤ったものに魅せられていたのだろう
蛍はすべていってしまった
あまい水 にがい水
わたしのなかには
静かに
密かに
渓流がある
あまい水 にがい水
天上の月は
おぼれるわたしを
鋭く
照らす
まことの川はすべての水をたぐりよせ
まことの川はすべての水をつつみこむ
蛍はすべて まことの川へ
蛍は
すべて
いってしまった
夏の巡りは
無限の軌跡をたどるが故に
どれもこれもが一度きり
この夏も
その夏も
あの夏も
わたしだからこそ 歌える夏があり
わたしだからこそ
歌えぬ夏がある
わたしの胸の温もりが
正しくうたに解けたとき
許しの川は見えるだろうか
蛍の光をかたわらに
命の光をかたわらに