詩人:カナリア
「オムライスが食べたい」
今は亡きあの人の セピア色に包まれた思い出を語る時
彼女はつぶらな瞳から涙を零し その雫は 彼女があの人と共に生きた
長い 長い歳月のシワを
ゆっくり ゆっくりと伝うのです
「オムライスが食べたい」「あなた、ケチャップ嫌いでしょ」
彼女はもう着る宛てのないあの人の上着を 大事そうにたたみながら
もう殆ど 光を映し出さないほどの視力を頼りに
そっとタンスの奥にしまい込んだ
「あぁ…あの時あの人に
オムライス作ってやれば良かった」
そう言って 紅色の座布団の上に膝を折りたたんだ
西日が染める 遠い空を
ただ静かに 見つめる 彼女の瞳にはどんな光が差し込んだのでしょう
「あの人は私の永遠の恋人よ」
しわくちゃな笑顔でそう呟いた彼女からは
優しいオムライスの匂いがした気がしたのです
今は亡きあの人の セピア色に包まれた思い出を語る時
彼女はつぶらな瞳から涙を零し その雫は 彼女があの人と共に生きた
長い 長い歳月のシワを
ゆっくり ゆっくりと伝うのです