詩人:秋庭 朔
ある夏の日の夕暮れ
外回りから帰り
事務所のドアを開けると
すぐに部長が
大きな声で
ぼくの名前を呼んだ。
背中を向けて
キーボードを叩いてた
彼女が、
弾かれたように
顔をあげ、
こちらを振り向いた。
まるで機械仕掛けの
おもちゃみたいだった。
君を呼んだんじゃない…
部長が生真面目な顔で
彼女に言った。
薄紅色に染まった
彼女の顔を見て
みんなが
声をあげて笑った。
あの時確かに
ぼくの中で
何かが動き始めた。
彼女は長い間
ただ待ち続け
何も求めなかった。
だから、ぼくは
全部あげたくなった
のかも知れない。