詩人:千波 一也
ごらん
あれは
眠りの間際の窓辺たち
ごらん
あれは
烏賊を釣る船の漁り火
人々の暮らしは在り続けていてくれる
汗をにじませながら
涙をうるませながら
人々の暮らしは在り続けていてくれる
夜景に息づく光の粒には宝石のかがやき
やさしい血潮と
たしかな血潮の
あたたかな気配のその向こうに
光を守る両手がみえる
暮らしは続いているのだ
ボロボロの生地になったとしても
磨くことを休みはしないのだ
彼方からは
ゆっくりと汐の香が
波間の無限を
教えてくれている
山頂からのぞむものは由緒正しき地下水脈
一つ一つの軒先に
一つ一つの道端に
流れをやまぬ水が灯っているのだ
枯渇、などと
軽々しく口に出してはいけないね
「潤いをありがとう」
視界の片隅で
ロープウェイが往復を繰り返す
この井戸は
たくさんの乾きを
癒し続けてゆくのだろう
人々の暮らしの在る限り
人々の暮らしの
在る限り