詩人:千波 一也
幾千幾万の人波は終わりを告げない
すれ違う一つ一つの顔を
忘れる代わりに
白の背中が鮮烈に映える
本当は
黒であり 青であり
赤であるかも知れないが
白で良い
すべて白で良い
わたしは背中を確かに覚える
燃え尽きた色だね、と
正面の活火山は笑うだろうか
いま、火薬という名の運命が夏の夜空を駈けのぼる
四方を囲む山々は
その足音を跳ね返し
散りゆく音を一つに束ねて
轟音を織り 地へ注ぐ
そして歓喜は呼応する
密閉された盛夏の地上で
拍手と 舞と 万歳と
宵闇の底で活火山は
ちらり と 横顔を見せた
一つも動かず
然れど黙らず
不意にわたしは
巨大な棺のなかに在ることを自覚した
いま、火種は放られたのだ
あまたの刹那は何処へと還るのだろう
輪廻は優しき永劫かも知れない
あまたの刹那は何処へと還るのだろう
幾千幾万の人波は終わりを告げない
潤んだ瞳を
次から次へ 空へと向けて
遠く遙かへ 駈けのぼってゆく
翼をもたない
その
白の背中で