詩人:ハト
あの日のわたしが乗っていた
六両編成の電車とすれ違う
オレンジと緑のラインも鮮やかに
光を反射する銀色の
その電車の二両目に
わたしは好んで乗っていたのです
自分の好きなものも
好きと言えなくて
不甲斐ない自分を
もどかしいと思いながらも
どこか諦め始めていた
そんな四月の二両目でした
赤い車に乗っています
どの季節でも
見えないことのないように
季節ごとに見失う
生ものの感情
寧ろ生々しく
蘇るのは痛みなんかではないのです
愛や恋なんてものは苦手なのです
わたしがわたしではいられなくなる
つばめのツガイが飛んでゆきます
どうしてわたしは
わたしだけではいられないのでしょう
二両目に乗っていたのは
描いていた少女に近づきたかった
少女になりきれなかったわたし
菜の花畑を見てはしゃいでいる
彼女たちが恨めしかった
平行に走る
オレンジと緑のラインも鮮やかに
優しげな日差しを反射して
銀色に鈍く光る
六両編成の電車
春はいつでも
優しいのでしょうか
涙とともにやってくるのに
始まりはいつも春
終わるのもいつも春
自分の気持ちすら
あらわせないまま
一日、また、一日、と
消化する
春