詩人:どるとる
昔お母さんに教えてもらった蝶々結び
今は簡単にできるよ
ものの数秒もかからずにね
でもあの頃はできなくて何度も泣いて
八つ当たりしてよくあなたに怒られたね
今はもういない
母のあの声が
大人になった僕の
心に絶え間なく聞こえている
それはまるで夢幻
されどあなたの声は僕をあの日にかえすのさ
蝶々結び できたよ
ほら すごいでしょ
できなかったことができる それも大人になったあかし
蝶々結びとお母さん
玄関 出かけるとき
すぐに できるよ
あなたのおかげだよ
それでもあなたはもういない
何を言いたくても
あなたにはもう感謝も皮肉も言えないね
張り合いがないこともそうだけれどいちばん悲しいのはね
お母さん
あなたのその姿を瞳にうつせないこと
あなたの部屋にはただ片づけられた殺風景なむなしさがあるだけで
夕陽が差し込んだ部屋
オレンジがかって
思い出さえ片づけられてしまったみたい
ほら 僕の目には涙…
何度も何度も季節は過ぎたよ
そのたびあなたが僕の中から少しずつ遠くなる気がして時間が経つのがとても悲しかった
あなたの記憶が僕の中から抜け落ちてゆくようで
蝶々結びも忘れてしまいそうでこわかったよ
大好きだったから
いや ちがうね
大好きだから 今も…
昔お母さんに教えてもらった蝶々結び
今は簡単にできるよ
ものの数秒もかからずにね
でもあの頃はできなくて何度も泣いて
八つ当たりしてよくあなたに怒られたね
今はもういない
母のあの声が
大人になった僕の
心に絶え間なく聞こえている
涙の向こう かすかに見えたあなたの好きだった夕焼け空がほら 今 見えてるよ
あなたにも見せたい
蝶々結びはきっと僕とあなたをつなぐ結び目でもある
記憶がほどけないかぎり僕の中のあなたはずっとずっと死なない
あの夕陽のようにいつまでもすぐ傍にいてくれる。