詩人:千波 一也
夥(おびただ)しく降り注ぐのは
湿り気のある眼球たち
あまりにも優しい成分なので
それらは
容易(たやす)く踏み潰せてしまうのだが
悲鳴に私は恐怖する
オアシスはすぐ其処だ
通り過ぎて来ただけの街並みに似て
その向こうには蜃気楼
潤いを求める私にとって
意味をなさない
蜃気楼
眼球がいま、肩で砕けた
耳を塞ぎ忘れた私は
断末魔を聞いてしまった
何度目になるだろう
眼球の孕んでいた水分が肩に広がり始めている
太陽に見つかってはならない
乾くのだ
熱いのだ
潤いが奪われてゆくのだ
急がなくてはならない
私は走る
眼球たちの注ぎのなかをひた走る
オアシスはすぐ其処だ
けれど
私を迎えたものは
空から降り注ぐものたちの集落
水たまり、のようなもの
私は此処では潤えない
辺りに転がる亡骸(なきがら)も
他人事ではなくなってきた
注ぎをやまぬ優しい成分たちに
何かを言いかけて
ジャリッと
私は
舌を噛んでしまった