詩人:けむり
始めて心を許した友達が
「コーヒーを煎れるよ」
とほがらかに笑った
ぼくはひざをさすりながら
「砂糖もミルクも入れないで」
とぎこちなく笑って返した
友達は分かっているよといった表情で
やわらかくうなずき
ぼくは背筋をただしながら
窓に映るまぶしい青空に目を細めた
腕にはめたアナログ時計が静かに秒針を刻み
床に散らかったゲーム機は
まだコントローラーに繋がったぼくたちを
覚えているみたいだった
友達は『楽園の征服』を鼻歌で歌い
ぼくは人さし指でリズムを取りながら…
若葉の萌える春の匂いが ぼくたちを包み
うららかな昼下がりに
ぼくたちは同じものを思い描いていた
それはきびしい密約だから
ぼくたちでさえ口に出来ない
けれども同じ瞬間に目を合わせ
照れくさくも確かさを認め合い
酸味の強いモカコーヒーの香りに
とろけて 心と心は二人っきりで
はかなくも果てしなく広大な糸を 見ていた