詩人:千波 一也
絹のような 抗いがたい量感に
涙さえも濡れてゆく
霧とよぶには 重たく
雨とよぶには 軽く
そこはかとなく
命名を拒むような
その 結界に包まれて
記憶の軸も同様に
遠退いてゆく
かよわい諸手の支える傘に
凌げるちからは ある筈もなく
涙一つもまもれぬ瞳に
頼れる軒は 映る筈もない
潤いは
どこか足枷に似ている
傾けた耳を入り口に
時は駆け抜けて
それゆえ寄る辺は
なおさら
遥か
しばらく
このまま囚われていようか、と
曇天の道筋を探る
吐息もろとも 攫(さら)われてゆく
しずかな
しずかな
潮騒に
2006/09/09 (Sat)