詩人:高級スプーン
私の身体から
ぷくりと湧いて
するりと抜けて
まっすぐに駆けていく
少年
後ろ姿は半透明
目で追うだけで
やっとの私
動けない
それからまた
忘れた頃にやってくる
あと数時間で
今年も終わる
感動も不幸もごく僅か
起伏に乏しい一年でした
先の見える
歩きやすい未知
なのに
太陽がまぶしくて
前を向けずに
足踏み 足踏み
でも
言い訳じゃないから と
人に話す時
やけに必死だったような
おととい食べた夕飯も
思い出せない頭をはたき
落ちるのはホコリか
ゆるんだネジか
大掃除の途中辺りで
私の内側
灯る過去
めぐりめぐるぐる
振り返る
それは灯籠
影になった私は
せかせかと
あっちへ こっちへ
せわしない
はたから見れば
よくわかる
残るものなど
なくて当然
か
その他すべてを振り払い
過ぎていく
その
後ろ姿を
無心で追いかけていれば
満足したか
いいや
追いつき
捕まえられたなら
きっと
でもやっぱり
騙されたと
嘆くのがオチだろう
緑の少ない公園
派手な色の
ジャングルジム
そらを目指して登り
掴んだものは
上級生の片足で
払われ 蹴られ
地面に激突
そこから先は
覚えていない
少年は笑っていたか
走りながら
その先も
静かに波打つ虚しさや
不意に襲う悲しみに
つらい過去にも
挫けず 狂わず
まっすぐに駆けていく
少年は笑っていたか
一生を通して
幸せは
ほんの一握り
手に入るとも限らない
それでも
暖かいソバをすすり
一息
月見がおいしい
隣はどこかに
出掛けたんだろう
いつもの騒音
聞こえてこない
そんな中
私はひとり
部屋の隅
長針が
そらを差すのを
待っていた
MINNA1231