詩人:千波 一也
口に出してごらん
うるおい、と
その
やわらかな響きは
途方もなくひろい海の
すみからすみまで
満ち満ちてゆくようなものではない
干からびてしまう言葉は
いくらでもある
もの知りなふくろうが鳴かないよるに
海と陸とがむすばれ合う
つまりは
ふくろうとくじらとの
ゆめが繋がるということ
男はかつて女だった
月はかつて太陽だった
そんな
確かめようのない語りに
流されたくなってしまう
よるをたびたび
この足下にはくじらが眠る
その足下にも
向こうにも
まさか、と
わらってみるのも
物思いにふけってみるのも
それぞれに
すてきないのちの不思議
分かつことに
良いもわるいもない
たとえばそれは風のぬくもり
適度につたわる
うるおい、のような