詩人:ハト
君は覚えているだろうか
あの夜の奇妙な高揚を
示し合わせた訳でもないのに
同じ場所に集まった少女の群れを
その中にいた私を
君は覚えているだろうか
みんなして
靴を空高く放り投げていた
願ったのは明日の空
雨が降ったら
せっかく練習した鼓笛も
紙で作った御輿も
すべて無駄になってしまうから
何度でも放り投げた
私は右の靴だった
明日の天気を願った
ちょうちんの薄明かりに
どれが誰の靴だか
わからなくなってしまって
それでも
私たちは喜んで
すぐそこにある星々を見下ろして
明日の天気を思った
君は覚えているだろうか
何度となく繰り返し歩いた
あの川沿いの砂利道を
君は知っているだろうか
片側の土手が
舗装されてしまったことを
町営のグラウンドの照明が眩しすぎて
星座が見えにくくなってしまったことを
君は覚えているだろうか
この季節
夜になるとやって来る
この高揚
私は今でもこの季節
夜になるとやって来る
この高揚に抗えずに
ふらふらとあの砂利道を歩きに行く
ちょうちんの道標に導かれて
あの日と同じ道を辿っている
同じでないものの方が
実は多いのだけれど
この夜の中でだけ
私はあの夜の少女に戻ることができ
もう少し行くとあのベンチで
示し合わせた訳でもないのに
君たちが待っていてくれるような
そんな高揚が
この胸に広がる
あの日と同じでない夜を感じながら
右の靴を投げてみる