詩人:右色
貝塚明彦は
失いたくないから逃げているのだと
思っていた
彼は誰とでも分け隔てなく接するが
同時に誰とも仲良くならない
彼自身別段意識しているワケでもないが
気付けばそんな風だった
森崎ユウにとって
感情は理解放棄の態度でしかなかった
彼女は何時如何なる時も思考を休めることなく進める
それこそが唯一意味ある行為で
ろくに会話すら出来ない隣人を相手にする必要はない
彼女は誰に教わることもなくそう確信している
無論
この二人に感情は無い
しかして人の結合原理が妥協と諦観である以上
森崎ユウは一人であるし
世界が有限で時間に支配されている限り
みんなと仲良くしたいと願う貝塚明彦は
誰とも繋がることはできない
そんな二人は
この蒼い月の夜
同時に涙する
貝塚は微笑み
森崎は否定しながら
二人は同じ色の涙を流して
同じ夢を見た