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[113611] 月枕:貝塚と森崎

詩人:右色

貝塚明彦は

失いたくないから逃げているのだと
思っていた

彼は誰とでも分け隔てなく接するが
同時に誰とも仲良くならない

彼自身別段意識しているワケでもないが
気付けばそんな風だった


森崎ユウにとって

感情は理解放棄の態度でしかなかった

彼女は何時如何なる時も思考を休めることなく進める
それこそが唯一意味ある行為で
ろくに会話すら出来ない隣人を相手にする必要はない

彼女は誰に教わることもなくそう確信している

無論

この二人に感情は無い

しかして人の結合原理が妥協と諦観である以上

森崎ユウは一人であるし

世界が有限で時間に支配されている限り

みんなと仲良くしたいと願う貝塚明彦は

誰とも繋がることはできない


そんな二人は

この蒼い月の夜

同時に涙する

貝塚は微笑み
森崎は否定しながら

二人は同じ色の涙を流して
同じ夢を見た

2007/10/30 (Tue)
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