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詩人:千波 一也
おのれの呼吸が
一つの音であるということ
それは
あまりにも気づき難くて
ともすれば
日々の暮らしの意味さえも忘れてしまう
月の満ち欠けは
暦の通りに
全く正しく空に映るのだから
今宵の嘆きがあざやかな理由も
どこかで必ず
守られているのだろう
たとえば
廃屋の書斎の明るい奥底に
わたしだけの暦は
全く正しく
待つのだろう
静かな夜にたたずむ月は
簡単に滲んでゆきそうな
やさしい花を見せているから
思わず瞳を伏せてしまう
その視線の先には
爪が淡く
潤っているのだけれど
砕ける音を望みはしなくとも
まぼろしが賑やかな夜の浅瀬では
淀まぬ流れたちが
懸命に溺れようとしており
澄んだ音色が響き渡る
硝子の箱のなかを溢れゆくように
響き渡る
わたしはけだもの
独り、拳を握り締めながら
ただノクターンに身を寄せている
逆らえない
この加減ではまだ逆らえない
魂のやすらぎを求めてやまず
醒めても
眠る
わたしはけだもの