詩人:千波 一也
手は届かない
だから
わたしは指をくわえる
手は届かない
だから
わたしは素直にのぞむ
手は届かない
だから
わたしは
ポトリと落ちた果実をよろこぶ
非力な諸手で果実を拾い
非力なアゴで果実を
砕く
したたる果汁のペタペタを
くすんだ白地の
ハンカチで拭く
そらではゆっくり雲が流れて
あおの湯舟は
陽で満ちて
ゆく
道のほとりにわらう小花は
すぐにも
摘んでしまえるけれど
真昼のほしを
そこにみたから
香りだけを
そっと
髪にのせて
ひとみを誇るわたしは
ちいさい
うたを続けるわたしも
ちいさい
だから
わたしは
しあわせになろう
手は届かない
だから
わたしは
しあわせになる