詩人:老女と口紅。
田場タバ子
思いおこせば君に惹かれたのは十五の夏 けれどその感情はただの好奇心 ひどく蒸した暑い夕暮れ時に扇風機が首を振りつつ僕を伺う あぁこの部屋はけだるく青春を持て余したこの身は ただひたすら天井を仰ぐのみ 暫くしてむくりと起きあがり財布を手にしたのは午後の十時を回るくらいか 闇にまぎれ目的地を目指すも犯罪の意識に後ろめたさが早足へと駆り立てる 目指したのはそう自動販売機 少年の心は身を売るタバ子らに憧れにも似た興奮など覚えたものさ だが今は君らの容姿を吟味する暇は持ち合わせていない 販売機の明かりに照らされたこの姿は滑稽に違いないからね そそくさと小銭を与え ただの一つも手に取って足早にこの場から立ち去るに越したことはない 逃げ去るようにして帰路に着けば安堵感がため息となり大きなものが一つ零れ落ちる してやったりとポケットから取り出せば 艶やかな手触りにほくそ笑み四方八方から眺めたりしたものさ そして封を切る‥なれば大人の香り だがそれは嗅ぎ慣れない乾燥した葉の匂い 何かこぅ‥不快。苦悶な表情を浮かべながらもテーブルを見渡しライターを探さすが勿論あるはずもなく いそいそと台所へと足を運ぶ そして換気扇を回しカチンと焜炉に火を点けてそっとタバ子と口付けを交わせば 彼女の頬ッペは一気に七百度へと熱を帯びた 二人の関係は熱い煙りとなって口の中へと取り込まれ 深い呼吸と共に体の奥の奥へと運ばれる そしてゆっくりと吐き出される煙りはため息にも似て 白く重く鼻先をかすめながらじっくりと目の奥を刺激した あぁ 想像はしていたもののやはり楽しめない タバ子との初めてのチッスの味はほろ苦く ちょっぴり大人に近づくも 若い行為は軽い目眩いと頭痛を誘うだけ そんな僕を横目にタバ子は笑うんだ そして彼女はプカプカと僕を煙りに巻いた後 ユラユラとどこかに行ってしまった。