詩人:千波 一也
理由をお尋ねしても構いませんか
無用な物事に慣れてしまえば
あなたの哀しみと同等に
わたしも哀しいのです
涙の理由を
お尋ねしても構いませんか
夕闇のなかを
誰も彼もが急ぎ足ですね
それはつまり
きょうの日が終わるということであって
あしたの日を迎える支度が
始まっているということなのです
たとえ
無自覚であろうとも
かたちという言葉のかたちには
翻弄されてばかりのわたしですが
あなたもきっと
同じであるような気がします
願う幸せとは
いつもいつもはぐれてばかりで
思いも寄らない優しさや
ほんの小さな贈り物に
知らず知らず
笑顔がこぼれていたりするものです
柔軟に
澄んだ瞳を保つためだけに
涙を流していてください
そのなかで
綺麗な物事に
ほんの少しでも
明るくなれたなら
それは
素敵な階段だと思うのです
大丈夫。
想いのすべては救われます
憶えのない姿かたちに戸惑うときには
胸に尋ねてみることです
旧い住人ほど
些細な日付に詳しいですから
必ずこころは頷きます
空を渡る風たちの
無限の軌道の約束のように
想いのすべては救われるのです
大丈夫。
涙の理由を
お尋ねしても構いませんか
やわらかな
さよならの儀式の
余韻のほころぶ
ひかりのなかで