詩人:千波 一也
僕は
あの木のてっぺんに上りたい、と
あこがれてみただけだよ
幹にふれて
枝をみあげて
ただそれだけで
服を破いたわけでもなく
すり傷を負ったわけでもなく
あこがれてみただけだよ
おとなになるってことが
よくわからないから
望んでいないし拒んでもいない
今夜のベッドと夢見とが
あたたかい温度であればいい
僕は
そういうことに
素直でいたいなって思うよ
僕はなにかを失ってしまうのかな
あやぶむこと
あわれむこと
あざけること
その良し悪しはむずかしいね
そもそも疑問は無駄かも知れない
だけどきっと
それらのことは
誰かのために生きているはずで
何かのために続いているはずで
僕は
理由をさがして
迷子になった
やさしいはずの答の途中で
疑うことを
疑わぬまま
三日月にはもうすべり台など想わない
僕は
未完の昔を並べて崩して
「さよなら、入口」
「また来て、出口」
今夜もたがわず
眠り損ねる