詩人:千波 一也
しらないものが多すぎて
わたしたちはいつも
上手におぼれる
陽射しとは
なにを探し出すためのあかりだろう
こたえなどわかる筈もなく
求めるわけもなく
わたしたちはいつも
上手におぼれる
遠くはないのに
遠くにおぼえてしまうもの
それは
封を切られた手紙のように
寂しさを装いながらも
確かにあたたかく
季節を告げる
握りしめた真夏の茶色の名残に
そそがれてゆく語りが
記憶のはじまり
わたしたちは
絶え間のない流れのなかで
どれだけの頼りなさを
許してゆけるだろう
幾つの夢を
約束を
透きとおる硝子の手前で
あるいは向こうで
わたしたちは
誰よりもさかなだった
こぼれる吐息に
名前をのせて
泡は
ゆたかに
しあわせをあふれ
きらめいていた
八月はもう終わらない
わたしたちはそして
上手におぼれる
それとは知らずに
なおさらに