詩人:千波 一也
こちらから
突破をしようと
傷を負ったとしても
それは
無理矢理な
自分自身なのだから
痛みなど耐えられるし
そもそもそれは
痛みなどではない
だろう
向こうから
傷を傷ともせずに
誰かが
無理矢理に
笑ってはくれないだろうか
と
そんな願いこそが
どうしようもなく痛い
鉄条網を越えてくるものは
いまだに風ばかり
いつのまにやら
有刺鉄線は張り巡らされて
だれが
だれを守れなかった
痕跡なのだろう
有志、と呟けば
乾いたくちびるが
あてもなく
ちぎれる
水分は
やがて錆びつくから
涙と汗と血液と
うるおいにまみれる自分は
鉄条網の敵なのだ
何よりもまず
この眼前の
鉄条網が敵なのだ