詩人:剛田奇作
『おかえり』を
自分に言うのが好き
靴下をぬいで
洗面台のランプをつけて
髪を解かす夕方が好き
ジブンていう、高飛車な響きが好き
トマトの傾きのいちばんセクシーな角度が好き
レモンの優しい冷たさが好き
空を見上げた格好の
女の子が好き
恋人の揃った前髪を
ぐしゃぐしゃにするのが好き
友達の鞄の中を見せてもらうのが好き
礼儀正しく吊り下がった
電車の広告が好き
延々続くありふれたポップミュージックみたいに
流れて漂う私
どうしたって
やっぱりつまんないかも知れないけど
テノヒラ
広げて
真ん中に
大好きなものを乗せて
香りや感触を確かめること
それを好きと想うこと
またひとつ増えた
瑞々しい真実
巨大な世界のはじっこで
ピンボールはゲームオーバーだけれど
アクセクしてる私を見つけた
神様の上品な苦笑