詩人:千波 一也
みなもの月が
やわらかそうで
みんなたのしく眺めていたね
そして
だれかが
つかまえようとして
バシャリと濡れてしまっていたね
それを
だれかはよろこんで
違うだれかはともしびにして
なまえを呼んだり
うたってみたり
あの日の
みなもに生まれた波は
すべてをつないで揺れていた
みんなたのしく濡れていた
届かぬものに
背を向けたとき
そこにはじめてほんとが咲くよ
おわりを数える時計がすすむよ
さよならの指紋とあきらめの関節
たとえばそれが
ありふれた叙情だとして
どの手がそれを望んだだろうか
やわらかいものたちが
やわらかく溶けてしまわぬように
願った分だけ
熱は過去に消えて
今夜、
みなもの月は
逃げ出しそうで
ひとりいそいで目をそらしたよ
ただあてもなく目をそらしたよ
うるんだ
みちで