詩人:千波 一也
そっと
持ちあげようとするほどに
ゆびさきは震えて
過ぎ去った季節は
こんなにも重みがあったのだ、と
追いつけない風に
ただよっている
虫のいのちは淡いらしい
されど
さみだれ、あじさい、あまのがわ
ひと夏を語ることばは少なくて
触れられもせぬおもいでに
着せられてゆくばかり
秋も冬も
春から遠い
朝も昼も夜もひと夏と変わりなく
瞳のそばでくずれる殻よ
それは置き去りのかたちか
それともうつろか
まったくの
うつろか
そらは
どこまで連れ添うのだろう
あいにくと
何もかもが透けてしまうから
けれど
それゆえにこそ
つばさはゆるされる
消えゆくものにふさわしく
たよりないつばさが
ゆるされる
淡くもうつつを呼ぶならば