詩人:どるとる
遠い日幼い時分飛ばした紙ひこうき
僕は手先が不器用だから折り目をなかなか合わせられず
「角と角を きれいにそろえるのがコツだよ」
そんな母親の声を今もかすかに覚えてる
あなたが いなくなって 僕は
こんなにも きれいに紙ひこうきが
折れるようになったのに
見せるあなたがいない
いい子になるよって約束したあの夕暮れ
ベッドで 寝たままのあなたを
最後に見たのは いつだったかな
すごく痩せたあなたが力なく笑ってた
あの 空に 翼を広げる 誰かが投げた紙ひこうき
願い事を 書いて飛ばすと 願いが叶うという話
「お母さんが元気がなりますように」
あの日の僕の願いは叶わなかった
大人になって 仕事に追われて
あなたのことを考えるのが少なくなった
お陰さまで忙しくしているよ
あなたがくれたこの命を一度は粗末にしようとした おろかさを許して
僕の子供に 紙ひこうきを教えるときは僕が適役さ
「角と角をそろえるのがコツだよ」
いつの間にか母親の言葉を真似してた
あなたがいたこと 時々忘れそうになる
それが 悲しくて
大事な思い出を忘れないように そんなときは紙ひこうきを折るの
だいだいに暮れた 夕焼け空に 紙ひこうきが飛んでる
君が飛ばした紙ひこうきと僕が飛ばした紙ひこうき
「どちらが長く飛んでいられるかなあ」
空の遠くまで飛んで あなたに届けと祈った
会いたいと 思うことのないようにしないと
すぐに 涙に包まれてしまうから
僕は あなたの顔を必死に忘れようとした
でも覚えているより忘れることのほうが悲しいと 思った
あの 空に 翼を広げる 誰かが投げた紙ひこうき
願い事を 書いて飛ばすと 願いが叶うという話
「お母さんが元気がなりますように」
あの日の僕の願いは叶わなかった
もう一度紙ひこうきを飛ばすなら
違う願いを書こう
「あなたが幸せであるように」