詩人:どるとる
ここにあった たくさんの思い出は
いつの間にか僕だけのものになったよ
春の終わりに 跡形もなく消えた
まるでそれが当たり前のように
世界はあなたを描くことを忘れた
描かれた 絵を消しゴムで なかったことにするみたいに
僕があなたを思い出すとき
あなたはいつもそこにいなくて
でも こうして瞼閉じればたくさんの
君が あふれるくらい 浮かぶのに
もう一度瞼を開ければそれがすべて
僕の中に残る面影だったと知るんだよ
いたずらそうに笑う顔も 喧嘩してやっと仲直りしたあとに見せる涙も
全部ここにあるのにそれは僕だけにしか見えない思い出
雲の切れ間に 光が差して
雨上がりの空に のぞいた太陽
あんなにきれいな桜も散るんだね
君は春の終わりは嫌いだって
寂しそうによく言っていたのを思い出しながら縁側で日向ぼっこしながら 猫とじゃれる君を夢に見た
あなたとの思い出をひとつひとつ
思い出して あなたが残した足跡を辿る
あなたが好きだった場所を巡った 二人でよく行ったあの水族館
夕暮れの 空が水面に映る 花びらを浮かべた 透明な河
君がよく作ってくれた 不味いオムライス もう食べられないんだ
それはこの世界で空と僕だけが知るあなたのすべて
さよならが 言えなかったことよりも
上手くおはようが言えなかったことよりも
もう少しだけ もう少しだけ 願えば願うほど二人に残された時間はあまりに
短くて いくら笑っても ちっとも足らなかったよ
でももう君はいないんだ 僕は笑いかたさえ忘れたよ。