詩人:黒烏
「明日、君は死ぬ事になる訳だけれど…」
「はい…覚悟は、出来ています」
英語教師がすれ違いざまに立ち止まり
深刻な顔をして私に話し掛けてくるものだから私はちょっと笑って見せた
誰も居ない曲がりくねったメタリックな廊下
誰も 居なかった
「私…怖くありません。
だって、仕方がないのでしょう?」
こんなにも元気だけれど
私は、明日死ぬのだ
何もそれは目の前の人のせいじゃない
彼は悲しげに頭を振り、去って行った
それから私は
その廊下沿いに並ぶ部屋のドアを一つずつ叩いて
別れを告げていった
色々な別れをした
皆泣いて悲しんだが
私は悲しくないのを不思議とも思わなかった
私は丁度手術室に入る外科医のようないでたちで、手術室に入ろうとしていた
この扉の向こうで、私は死ぬ
死ななければならない
死ぬのだ
本当に…
「準備は出来たか?」
あの英語教師が、耳許で囁いた
嫌な響きだった
身仕度はとうに出来ている
多分、心の方だろう
「はい」
嘘を、ついた
途端 今までの平静が嘘だったかのように
地震が起こった
「本当に…死ななければならないのですか」
「そうだよ」
「どうしてですか…?
どうしたら死なずにいられますか?」
手術室のドアが鈍い音を立てて開く
中には刃物を手にした人間が並び
手招きをする
い
嫌だ
死にたくない
訪れる筈だった時間が、
生の本能が、
真っ赤な叫びを上げる
死にたくない!
冷や汗を流し
叫び声を上げて私はベッドから飛び起きた
そして子供のように
明け方まで泣きじゃくっていた
【私、まだ生きてるんだ!】
病院は、ひっそりと
まだ寝静まっていた