|
詩人:さみだれ
彼が呼吸を始めた日
宇宙は一瞬静かになった
虹色の波長の終端
何もない海の底で
彼は友達を持たず
家族を持たず
恋人も恩師も持たず
暗く冷たい海の底で生まれた
よく言えば「自由」であり
悪く言えば孤独であった
しかし感情を知らない彼に
そんなことは無意味なことで
もしこの海の底で
彼が感情を覚えたなら
それはあまりにも残酷で
とても耐えられるものではない
なら彼はなぜ生まれたの
生きるだけの生涯が
私には機械的に映るのです
分厚い氷の天蓋を
彼はまだ知らない
この光も
そのずっと向こうにいる私達も
彼はまだ知らないんだ
彼は呼吸を始めた
とても静かな時間の檻で
涙を流す彼に会えたら
笑い方を教えてあげよう、と
そう思う