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詩人:浮浪霊
彼はクラスに一人はいるイタい系の人で、【手かざし様】と呼ばれていた。
人には手を翳すだけで病を癒す力が有るのだと彼は言った。
それが彼の親が宗教にコケたからだったのか、彼自身がそういった超能力的なものにロマンを感じる性質だったからなのかはわからない。
ともすれば祖父母がそういった迷信について彼に語ったことが有ったかもしれないし、あるいは一部の武道の流派が提唱する、気とその功用についての馬鹿げた理論を鵜呑みにしていたのかもしれない。
彼は私のことが好きなのでは無いか。そう思うようになったのは、クラス旅行前に高熱を出して保健室で休んでいた私を、保健委員だった彼が見舞ってからだ。
お見舞いに来てくれた彼に、私は手をかざすことを許した。その時まで彼とは数度話したことがあるきりだったが、彼の趣味のことは知っていた。翌日のクラス旅行参加したさで藁にもすがる思いだったし、怖いもの見たさのような気持ちもあった。気に入らないようなら後で面白おかしく吹聴して、思い切り馬鹿にしてやるつもりだった。
彼がおずおずと伸ばし、そっと私の額に添えた手が冷たく、それが変に気持ちよかったのを覚えている。
「オレの手から額を通して流れ込んだ気が、体の中の悪い気を洗い流していくのを想像して」
彼に言われるまま意識を集中し、このまま治ってしまえと強く念じた。彼もまた目を閉じ念じ始めた。
だんだん楽になっていくような気がして、これはひょっとしたらひょっとするかもな、などと思った。