詩人:千波 一也
過保護な獣は病みやすく
保護なき獣は
傷(いた)みやすい
野に棲(す)む者よ
たがいの荒(すさ)びが
見えないか
涼しさ寒さは紙一重
闇夜も夢も
紙一重
野に棲む者よ
たがいの叫びが
聞こえるか
風は
どこにも棲みつかない
寂しさゆえに風に捕まり
影を揺らせと
棲む者がいる
それだけのこと
月は
毎夜を憂(うれ)えない
居場所を知らぬ者たちの
視線の震えが
満ち欠けをなす
それだけのこと
この世を分けて
隔たりをも分けて
百の獣が吠える
百の野を吠える
あてにならない軽さをもって
重みに耐えかね
なお吠える
野に棲む者は
己の姿を知っている
野に棲む者の
孤独を真に知っている
狭くとも
それは果てなく奥深い
野に棲む者よ
理由はあるか
そこに立つべき理由はあるか